遺言
最終更新日: 2025-12-20

遺言について

 
遺言とは、一定の方式に従って表示された個人の意思に基づき、その者の死後に法的効果を生じさせる制度です。
遺言は本人の最終意思を確認し、偽造や変造を防ぐため、法律で定められた形式に従って行う必要がある「要式行為」とされています。したがって、形式に違反した遺言は無効となります。
遺言は、相手方のいない単独行為であり、承諾を要せず効力を生じます。
なお、2人以上が同一の証書で遺言することはできません。複数人が同一証書で遺言すると、各自の真意が不明確になり、自由な撤回も困難になるためです。
また、複数の遺言が存在する場合は、作成日が最も新しい遺言が有効となります。
さらに、遺言者(被相続人)は、遺言により、相続開始時から5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止することができます


遺言を作成できる者について

 
遺言は、15歳以上意思能力があれば誰でも作成できます。ただし、代理による作成は認められません。
制限行為能力者が遺言をする場合、法定代理人等の同意は不要です。
ただし、成年被後見人は、事理弁識能力を一時的に回復した際、医師2名以上の立会いのもとで単独で遺言することができます。
また、被保佐人および被補助人も、単独で遺言をすることが可能です。


遺言の方式について

 
遺言には、普通方式特別方式があります。
それぞれの種類と概要は以下のとおりです。
 

遺言の方式・種類 内容

普通方式

自筆証書遺言

遺言者本人が全文、日付(年月日)、氏名を自署し、押印する。
財産目録は、ページごとに署名・押印すれば、パソコン作成や代筆、通帳のコピーの添付も可能。
氏名は姓のみ、または通称でも本人確認ができれば可ですが、推奨しません。
家庭裁判所の検認が必要。ただし、自筆証書遺言保管制度を利用する場合は不要

公正証書遺言

遺言者が内容を口述し、公証人が筆記する。
遺言者と証人に読み聞かせ、確認を取る。
公証人が方式遵守を付記し、本人・公証人・証人が署名・押印する。
証人は2人以上必要。
原本は公証役場で作成・保管。
家庭裁判所の検認は不要

秘密証書遺言

遺言書に署名・押印の後、同じ印で封印する。
公証人の前で遺言書の存在と住所氏名を申述する。
公証人が日付と申述内容を筆記する。
本人・公証人・証人が署名・押印する。
証人は2人以上必要。
原本は公証役場で作成。
家庭裁判所の検認が必要
遺言の存在を明確にし、内容の秘密を保持できる。
パソコン作成や代筆も可能。

特別方式

隔絶地遺言

一般社会との交通が断たれ、普通方式による遺言ができない場合に認められる。

危急時遺言

疾病その他の事由により死期が迫った場合に認められる。

※公正証書遺言の印鑑は実印が必要。自筆証書遺言・秘密証書遺言は認印でも可。
※遺言者の推定相続人・受遺者・それらの配偶者・直系血族、未成年者、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人は、いずれも証人になることができません。
※検認とは、家庭裁判所が遺言の存在と内容を相続人に知らせ、形状や加除訂正の状態を確認し、偽造・変造を防ぐ手続きです。遺言の有効・無効を判断するものではありません。


遺言の効力について

 
遺言の効力は、原則として遺言者の死亡時に発生します。
遺言で定めることができる事項は、相続や財産処分に関する事項身分上の事項に限られます。
 

遺言により法的効力を生じる主な事項

 

  • 非嫡出子(婚外子)の認知
  • 未成年者の後見人等の指定
  • 相続分の指定
  • 遺産分割の方法の指定
  • 遺産分割の一定期間禁止(最長5年)
  • 相続人相互の担保責任の変更
  • 特別受益持戻しの免除
  • 相続人の廃除およびその取消し
  • 祭祀等の承継者の指定
  • 遺言執行者の指定
  • 遺贈
  • 寄附行為
  • 信託の設定
  • 遺留分侵害額請求の順序の指定

遺贈について

 
遺贈とは、遺言によって自分の財産を無償で他人に与えることをいいます。
遺言で財産を与える人を遺贈者、その財産を受け取る人を受遺者と呼びます。
なお、胎児については、遺贈に関してすでに生まれたものとみなされるため、胎児を受遺者とする遺贈も有効です。


遺贈の種類について

 
遺贈には、包括遺贈特定遺贈の2種類があります。
 

包括遺贈

 
遺言者の遺産の全部または一部を、一定の割合で指定して遺贈する方法です。 
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため、相続と同様に遺贈の承認または放棄が可能です。
遺贈を放棄する場合は、包括遺贈があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります。
 

特定遺贈

 
遺言者の遺産に属する特定の財産や利益を指定して遺贈する方法です。
特定受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈の放棄が可能です。ただし、遺贈義務者や利害関係者から催告を受けた場合は、その期間内に決定する必要があります。回答がない場合は、承認したものとみなされます。
 

包括遺贈と特定遺贈の違い

 

 

包括遺贈

特定遺贈

遺贈形態

遺産の全部または一部を、一定の割合で指定して遺贈

特定の財産や利益を指定して遺贈

放棄の期限

相続の開始があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述。承認放棄がない場合は、承認したものとみなされる。

いつでも放棄できる。ただし、遺贈義務者や利害関係者から催告を受けた場合は、その期間内に決定する必要がある。回答がない場合は、承認したものとみなされる。

地位

相続人と同一の権利義務を有する。

受遺者

遺産分割協議

参加する義務がある。

相続人でない場合は、参加できない。

債務負担

包括割合で負担、債務控除可。

なし

受遺者が以前死亡した場合

遺贈は消滅し、受遺者の相続人への代襲はない。

遺留分

なし


遺言の撤回について

 
遺言者の最終意思を尊重するため、遺言はいつでも、法定の方式に従って全部または一部を撤回することができます。ただし、遺言者は撤回権を放棄することはできません
また、遺言者が遺言の趣旨と抵触する行為をした場合、その部分は撤回されたものとみなされます。これは、当該遺言が遺言者の最終意思を反映していないと考えられるためです。
 

遺言の趣旨と抵触する行為の具体例

 

  • 前の遺言が後の遺言と抵触する場合
  • 遺言が、遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合
  • 遺言者が故意に遺言書を破棄した場合
  • 遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合