配偶者居住権・配偶者短期居住権
最終更新日: 2025-12-20

配偶者居住権について

 
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合、遺産分割、遺贈、または死因贈与によって、その建物を使用し収益することができる権利をいいます。配偶者居住権は一身専属権であり、配偶者にのみ帰属し、譲渡することはできません。ここでいう「配偶者」とは、法律上婚姻関係にあった者を指し、内縁関係の者は含まれません
配偶者居住権の対象となる建物は、相続開始時点で被相続人の財産に属している必要があります。被相続人が建物の共有持分しか有していない場合、原則として配偶者居住権は成立しません。ただし、建物が被相続人と配偶者の共有である場合に限り、例外的に認められます。
遺産分割の請求を受けた家庭裁判所は、以下の場合に限り、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の審判をすることができます。

  • 共同相続人間で、配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立している場合
  • 配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、かつ建物所有者の不利益を考慮しても、配偶者の生活維持のため特に必要と認められる場合

 

配偶者居住権の存続期間

 
原則として配偶者の終身とされます。
ただし、遺産分割、遺贈、または死因贈与により期間を定めることも可能です。なお、遺産分割協議で期間を定めた場合、その延長や更新を求めることはできません。
 

配偶者居住権の登記

 
居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定登記を行わせる義務を負います。
配偶者居住権は、建物に登記することで、第三者に対抗することができます。
 

配偶者による居住建物の使用・収益・修繕

 
配偶者は、善良な管理者の注意をもって居住建物を使用・収益しなければなりません。
また、配偶者は居住建物の所有者の承諾を得なければ、以下の行為をすることはできません。

  • 居住建物の増改築
  • 第三者に居住建物の使用または収益をさせること

さらに、配偶者は居住建物の使用・収益に必要な修繕を行うことができます。ただし、修繕が必要であるにもかかわらず、配偶者が相当期間内に行わない場合、居住建物の所有者が修繕を行うことができます。
 

配偶者居住権の消滅

 
配偶者居住権が消滅する主な原因は、以下の4つです。

  1. 存続期間の満了
    定められた存続期間が満了した場合、配偶者居住権は消滅します。
  2. 居住建物の所有者による消滅請求
    以下の場合、居住建物の所有者は配偶者に対して是正を勧告し、相当期間内に是正されないときは、意思表示により配偶者居住権を消滅させることができます。
    • 用法順守義務や善管注意義務に違反した場合
    • 居住建物の所有者の承諾を得ずに第三者に使用・収益をさせた場合
    • 居住建物の所有者の承諾を得ずに増改築をした場合
  3. 配偶者の死亡
    配偶者が死亡した時点で、配偶者居住権は消滅します。
  4. 居住建物の全部消滅
    災害等により居住建物の全部が滅失した場合、配偶者居住権は消滅します。

 
なお、居住建物の所有者が配偶者より先に死亡した場合、その相続人が建物を相続しますが、配偶者居住権はそのまま存続します。
 

配偶者居住権の放棄および合意解除

 
配偶者は、配偶者居住権を放棄することができます。この場合、居住建物の所有者の「配偶者居住権付き所有権」は「完全所有権」となり、建物の価値が増加し、売却も容易になります。
ただし、無償で放棄した場合、放棄時の配偶者居住権の価額に相当する利益を所有者が贈与により受けたものとみなされ、贈与税の課税対象となります。
一方、合意解除により、配偶者がその時点の配偶者居住権の価額に相当する対価を所有者から受け取った場合、その対価は譲渡所得(総合課税)として扱われ、所得税および住民税の課税対象となります。


配偶者短期居住権

 
配偶者短期居住権とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、相続開始から一定期間、その建物を無償で使用できる権利です。配偶者短期居住権は配偶者居住権と同じく一身専属権であり、配偶者にのみ帰属し、譲渡することはできません。ここでいう「配偶者」とは、法律上婚姻関係にあった者を指し、内縁関係の者は含まれません
配偶者短期居住権の対象となる建物は、相続開始時点で被相続人の財産に属している必要があります。被相続人が建物の共有持分のみを有していた場合でも、配偶者短期居住権は成立します。この場合、配偶者は共有持分を取得した者に対価を支払うことなく建物を使用することができます。この点は、配偶者居住権とは異なる特徴です。
配偶者短期居住権は、配偶者居住権と同じく配偶者が無償で居住建物を使用できる権利ですが、配偶者短期居住権の場合、遺産分割において配偶者の具体的相続分からその価値が控除されることはありません。
なお、配偶者短期居住権は、第三者に対抗することができません
 

配偶者短期居住権の存続期間

 

  • 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割が必要な場合、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日、または相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日
  • 上記以外の場合、居住建物の所有権を取得した者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日

 

配偶者による居住建物の使用・修繕

 
配偶者短期居住権は、配偶者に居住建物の使用権原のみを認め、収益権原は認めません
配偶者は、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用しなければなりません。
また、配偶者は居住建物の取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用させることはできません。
さらに、配偶者は居住建物の使用に必要な修繕を行うことができます。ただし、修繕が必要であるにもかかわらず、配偶者が相当期間内に行わない場合、居住建物の取得者が修繕を行うことができます。
 

配偶者短期居住権の消滅

 
配偶者短期居住権が消滅する主な原因は、以下の5つです。

  1. 存続期間の満了
    定められた存続期間が満了した場合、配偶者短期居住権は消滅します。
  2. 居住建物の取得者による消滅請求
    以下の場合、居住建物の取得者は配偶者に対して是正を勧告し、相当期間内に是正されないときは、意思表示により配偶者短期居住権を消滅させることができます。居住建物が共有の場合、各共有者は単独で消滅請求を行うことができます。
    • 用法順守義務や善管注意義務に違反した場合
    • 居住建物の取得者の承諾を得ずに第三者に使用させた場合
  3. 配偶者による配偶者居住権の取得
    配偶者が配偶者居住権を取得した時点で、配偶者短期居住権は消滅します。
  4. 配偶者の死亡
    配偶者が死亡した時点で、配偶者短期居住権は消滅します。
  5. 居住建物の全部消滅
    災害等により居住建物の全部が滅失した場合、配偶者短期居住権は消滅します。

 
なお、配偶者短期居住権が消滅した場合、配偶者は居住建物を取得者に返還しなければなりません。その際、配偶者が相続開始後に居住建物に付属させた物がある場合、収去する権利と義務を負います。また、通常の使用による消耗や経年変化を除き、原状回復義務をあります。
 

配偶者短期居住権が成立しない場合

 
以下の場合、配偶者短期居住権は成立しません。

  • 配偶者が相続開始時に配偶者居住権を取得している場合
  • 配偶者が欠格事由に該当した場合、または廃除により相続人でなくなった場合

なお、配偶者が相続を放棄した場合であっても、配偶者短期居住権は成立します。