相続のきほん
最終更新日: 2025-12-14

相続について

 
相続とは、亡くなった人の財産(資産および負債)を特定の人が引き継ぐことをいいます。相続は人の死亡によって開始し、亡くなった人を「被相続人」、財産を引き継ぐ人を「相続人」と呼びます。


失踪宣告について

 
失踪とは、ある人の生死が不明な状態が一定期間続くことをいいます。行方不明となり長期間音信がない場合を「普通失踪」、自然災害・事故・戦地などの危難に遭遇して生死不明となった場合を「特別失踪」と呼びます。
 

普通失踪の場合

 
不在者の生死が7年間明らかでないとき、利害関係人の請求により家庭裁判所は失踪宣告をすることができます。この宣告を受けた者は、失踪から7年経過した時点で死亡したものとみなされ、相続が開始します。
 

特別失踪の場合

 
危難が去った後、1年間生死が明らかでないとき、利害関係人の請求により家庭裁判所は失踪宣告をすることができます。この場合、危難が去った時点で死亡したものとみなされ、相続が開始します。
 

期間要件と相続開始時

 

 区分

期間要件

相続開始時

普通失踪

生死不明から7年

失踪から7年経過したとき

特別失踪

危難が去ってから1年

危難が去ったとき


相続人について

 
相続によって遺産を受け取ることができるのは、法定相続人または受遺者のいずれかです。


法定相続人について

 
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、被相続人の配偶者と一定の血族に限られます。配偶者は必ず相続人となりますが、婚姻届を提出していない事実婚や内縁関係の場合は、相続人にはなれません
 

血族相続人の優先順位

 

  • 配偶者 :必ず相続人となります
  • 第1順位:子(実子・養子)
  • 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹

 
同じ順位に複数いる場合は、全員が相続人となります。ただし、先順位の者が1人でもいる場合、後順位の者は相続人になれません。
未成年者が相続人となる場合は、代理人の選任が必要です。


受遺者について

 
受遺者とは、遺言書で指名され、遺産を譲り受ける者を指します。


代襲相続について

 
代襲相続とは、相続開始前に本来の相続人が死亡などの理由で相続権を失った場合、その者の直系卑属(子)が代わりに同一順位で相続することをいいます。
 

代襲相続の範囲

 

  • 直系卑属(子・孫):再代襲再々代襲が認めれれます。
  • 兄弟姉妹:兄弟姉妹の子(被相続人の甥・姪)までは代襲相続が認められます。
  • 直系尊属(父母・祖父母):代襲相続は認められません。
  • 相続放棄した者:代襲相続は認められません。

相続欠格について

 
相続欠格とは、相続人の不正行為に対する制裁として、相続権を当然に喪失させる制度をいいます。
 

相続人の欠格事由

 

  • 故意に被相続人または相続に関して先順位・同順位の者を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
  • 被相続人が殺害されたことを知りながら、告発または告訴しなかった者
    ただし、是非の弁別がない場合や、殺害者が自己の配偶者または直系血族である場合は除く。
  • 詐欺または強迫により、被相続人が相続に関する遺言をすること、撤回・取消・変更することを妨げた者
  • 詐欺または強迫により、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回・取消・変更させた者
  • 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者

 
なお、相続欠格により相続権を失った者の直系卑属(子・孫)は、代襲相続することができます


推定相続人の廃除について

 
推定相続人の廃除とは、被相続人の意思により、遺留分を有する推定相続人の相続権を失わせる制度です。
 

廃除の要件

 

  • 廃除される者が、遺留分を有する推定相続人であること(遺留分を放棄した者は対象外)。
  • 推定相続人が、被相続人に対して虐待、重大な侮辱、その他著しい非行を行なったこと。
  • 被相続人が家庭裁判所に廃除の請求をすること。
  • 廃除の審判が確定、または調停が成立すること。

 
廃除の審判が確定、または調停が成立すると、その推定相続人は直ちに相続権を失い、戸籍に「廃除」の記載がされます。
被相続人が遺言で廃除の意思を表示した場合、遺言執行者は遺言効力発生後、遅滞なく、家庭裁判所へ廃除の請求を行う必要があります。
被相続人は、いつでも廃除の取消しを家庭裁判所に請求できます。
なお、廃除された推定相続人の直系卑属(子・孫)は、代襲相続することができます


相続分について

 
相続分とは、複数の相続人が共同で相続財産を承継する場合における、各相続人の承継割合をいいます。
遺言書がある場合は、遺言書に従って相続分を決定します。これを指定相続分といいます。
遺言書がない場合は、相続人全員の協議によって相続分を決めます。ただし、全員が合意するのは難しい場合があります。そのため、法律で定められた法定相続分が目安として設けられています。ただし、法定相続分はあくまで基準であり、必ず従う必要はありません。


法定相続分について

 
法定相続人の相続分は、以下のとおりです。
 

相続人の組み合わせ

法定相続分

配偶者のみ

全遺産を相続

配偶者と子

配偶者:1/2
子:1/2(子が複数の場合は1/2を均等割)

配偶者と直系尊属

配偶者:2/3
直系尊属:1/3(直系尊属が複数の場合は1/3を均等割)

配偶者と兄弟姉妹

配偶者:3/4
兄弟姉妹:1/4(兄弟姉妹が複数の場合は1/4を均等割)

 
胎児は、相続開始時にすでに生まれていたものとみなされます
子については、養子と実子の相続分は同等です。
実子である嫡出子と非嫡出子の相続分も同等です。
ただし、兄弟姉妹の場合、父母が同じ兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)と、父母の片方のみ同じ兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)では法定相続分が異なり、半血兄弟姉妹の法定相続分は全血兄弟姉妹の1/2となります。


特別受益者の相続分について

 
特別受益者とは、以下のような贈与や遺贈を受けた者をいいます。
 

  • 被相続人から遺贈を受けた者
  • 被相続人の生前、結婚や養子縁組のための贈与を受けた者
  • 被相続人の生前、生計の資本としての贈与を受けた者

 
共同相続人の中に特別受益者がいる場合、その受益分は相続分の前渡しとみなし、遺産に含めて(これを「持戻し」といいます)具体的な相続分を算定します。ただし、被相続人が「持戻しを望まない」旨の意思表示(持戻し免除の意思表示)をしていた場合は、その意思に従って算定します。
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦で、一方の配偶者が他方に居住用建物またはその敷地を遺贈・贈与した場合、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます。この場合、遺産分割では当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに算定します。


寄与者の相続分について

 
被相続人に対して療養看護などの特別な貢献をした場合、その貢献を考慮して遺産分割を行う制度を寄与分制度といいます。
相続人全員が参加する遺産分割協議で、寄与者が寄与分を主張し、他の相続人の合意を得て遺産分割を行います。合意が得られない場合、寄与者の申し立てにより、家庭裁判所が調停または審判で寄与分を定めます。
 

寄与者の具体的な相続分の算定方法

 

  • 被相続人の相続開始時の財産から寄与分を控除した額を相続財産とみなします。
  • その額を基準に、法定相続分または指定相続分で各相続人の相続分を算定します。
  • 算定した額に寄与分を加算したものが寄与者の具体的相続分となります。

特別寄与者と特別寄与料について

 
特別寄与者とは、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務を提供し、その結果、被相続人の財産の維持または増加に特別な寄与をした者で、相続人以外の親族(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)をいいます。
特別寄与者は、相続開始後、相続人に対し寄与に応じた金銭(特別寄与料)の支払いを請求できます。
なお、特別寄与者は相続権を取得しないため、遺産分割協議には参加できません
 

対象外となる者や行為

 

  • 相続人、親族以外の者
  • 相続放棄者
  • 欠格者
  • 廃除者
  • 被相続人から対価を得て労務を提供した場合
  • 被相続人に財産上の給付をした場合

 
特別寄与料は、特別寄与者と相続人の協議で決定します。協議が調わない場合、家庭裁判所に処分を請求できます。ただし、特別寄与者が相続開始および相続人を知った時から6か月経過後、または相続開始時から1年経過後は請求できません
特別寄与料は、相続開始時の財産価額から遺贈分を控除した残額が限度です。被相続人が遺言で全財産を遺贈している場合、特別寄与料は請求できません。
 

税務上の取扱い

 
特別寄与料は、遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となります。なお、特別寄与者は、相続税の2割加算の対象です。
納税義務が生じた場合の申告期限は、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内です。相続税申告後に特別寄与料が確定した場合は、確定を知った日の翌日から4か月以内更生の請求をすることができます。
相続人は、支払った特別寄与料を債務控除として相続財産から控除できます。


遺産分割について

 
相続人が複数いる場合、すべての相続人を共同相続人といい、被相続人の財産は共同相続人の共有となります。この共有財産を共同相続人で分けることを遺産分割といいます。
なお、被相続人は遺言によって、相続開始時から5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止することができます


遺産分割の種類について

 
遺産分割には、指定分割協議分割調停分割審判分割の4種類があります。
 

指定分割

 
遺言によって、相続分や分割方法を指定する方法です。遺産の一部のみを指定し、残りを共同相続人の協議で決定することもできます。
 

協議分割

 
共同相続人全員で協議し、全員の同意により分割する方法です。遺言と異なる内容でも、協議分割が優先されます。協議成立後、全員の署名・押印をした遺産分割協議書を作成します。協議分割による相続分は、必ずしも法定相続分に従う必要はなく、特定の相続人に取得分を与えないことも可能です。
 

調停分割

 
協議が成立しない場合、共同相続人の申立てにより、家庭裁判所で調停を行う方法です。裁判官と調停委員が分割案を提示し、当事者の合意によって成立します。
 

審判分割

 
調停でも合意に至らない場合、裁判官が職権で事実調査・証拠調べを行い、当事者の希望を考慮したうえで審判により分割します。審判に不服がある場合、即時抗告が可能です。


遺産分割の方法について

 
相続財産を実際に分ける方法には、現物分割換価分割代償分割の3種類があります。
 

現物分割

 
個別の財産をそのままの形で相続人に分ける方法です。たとえば、不動産を長男、預貯金を次男に分けるような方法です。
 

換価分割

 
財産の全部または一部を売却し、得た代金を相続人で分ける方法です。たとえば、不動産を売却し、売却代金を相続人で分配するような方法です。
 

代償分割

 
現物分割が困難な場合、特定の相続人が財産を取得し、その代償として自己の財産(通常は金銭)を他の相続人に支払う方法です。
代償財産は、被相続人から直接相続したものではありませんが、遺産分割協議に基づく債権により取得するため、相続税の課税対象となります。代償財産が株式や不動産など金銭以外の場合、交付した側には譲渡所得が発生する可能性があります。
 

相続税の課税価格の計算方法

 

代償財産を交付した人の課税価格 = 相続または遺贈で取得した財産の価額 − 交付した代償財産の価額

 

代償財産の受け取った人の課税価額 = 相続または遺贈で取得した財産の価額 + 受け取った代償財産の価額


遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度について

 
口座名義人が死亡し、その預貯金が遺産分割の対象となる場合、遺産分割が終了するまで相続人単独では払戻しを受けられないことがあります。このため、生活費や葬儀費用などの支払いに備え、2018(平成30)年7月の民法改正により「相続預貯金払戻し制度」が創設され、2019(令和元)年7月1日に施行されました。
本制度には、以下の2つの方法があります。
 

家庭裁判所の判断による払戻し

 
遺産分割の審判や調停が申し立てられている場合、相続人は家庭裁判所に申立てを行い、審判を得ることで、預貯金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けられます。ただし、生活費等の必要性が認められ、他の相続人の利益を害しない場合に限られます。
 

払戻し可能額 = 家庭裁判所が認めた仮取得額

 
制度を利用するための主な必要書類は、以下のとおりです。

  • 家庭裁判所の審判書謄本(確定表示がない場合は審判確定証明書も必要)
  • 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑登録証明書

 

家庭裁判所を経ずに払戻し

 
各相続人は、以下の式で計算した額まで、金融機関から単独で払戻しを受けられます。
 

払戻し可能額 = 相続開始時の預貯金額 × 法定相続分 × 1/3
※同一の金融機関(同一金融機関の複数支店に相続預貯金がある場合は合算)からの払戻しは150万円が上限です。

 
制度を利用するための主な必要書類は、以下のとおりです。

  • 被相続人の除籍謄本・戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 預貯金の払戻しを希望する人の印鑑登録証明書

ただし、必要書類は法律で定められていないため、事前に金融機関へ確認してください。
 
遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度は、次のように覚えましょう!
 

FP検定語呂合わせ暗記_遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度

遺産分割協議書について

 
遺産分割協議が成立し、各相続人の取得する財産が確定した場合、一般的には「遺産分割協議書」を作成し、証拠として保管します。遺産分割協議書の形式に法的な決まりはありませんが、相続人全員が署名・押印し、相続人全員の印鑑登録証明書を添付します。


相続の承認について

 
相続にはさまざまな状況があります。土地や預貯金などの資産だけでなく、負債を残したまま亡くなる場合もあります。そこで、相続の承認方法には、単純承認限定承認の2種類があります。
 

単純承認

 
単純承認とは、被相続人の財産(資産・負債)をすべて引き継ぐことです。負債がある場合、相続人がその支払い義務を負います。
相続開始を知った日から3か月以内に、限定承認や相続放棄を行わなければ、自動的に単純承認となります。単純承認をするために家庭裁判所への申述は不要です。
 

限定承認

 
限定承認とは、相続した資産の範囲内で負債を支払い、資産を超える負債については責任を負わない方法です。
相続開始を知った日から3か月以内に、共同相続人全員(相続放棄者を除く)で家庭裁判所に申述する必要があります。


相続の放棄について

 
相続の放棄とは、被相続人の財産(資産・負債)を一切相続しないことです。
相続開始を知った日から 3か月以内に、放棄する相続人が単独で家庭裁判所へ相続放棄申述書を提出する必要があります。
相続放棄をした者は、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされます
相続放棄の撤回は、熟慮期間内であっても認められません。
 

取消しが認められる場合

 
以下のような事由に該当する場合、相続放棄の取消しが可能です。

  • 未成年者が法定代理人の同意を得ずに行った場合
  • 成年被後見人が行った場合
  • 詐欺または強迫によって行った場合
  • 後見人が後見監督人の同意を得ずに行った場合

 
なお、相続放棄をした場合、その相続人の子による代襲相続は認められません


遺留分について

 
遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人に保障される、最低限の相続財産を受け取る権利です。
たとえば、遺言書に「私の遺産はすべてAさん(愛人)に残します」と記載されていた場合、その遺言は有効です。しかし、残された家族の生活が困窮する恐れがあります。
このような場合、法定相続人は遺留分を請求することで、一定の財産を確保できます。
 

遺留分権利者

 
遺留分権利者とは、遺留分を請求できる相続人を指します。
遺留分権利者となれるのは、以下の相続人です。

  • 被相続人の配偶者
  • 血族相続人の第1順位:子(代襲相続人を含む)
  • 血族相続人の第2順位:直系尊属(父母など)

一方、血族相続人の第3順位である兄弟姉妹には、遺留分の権利者はありません
 

遺留分の割合

 
遺留分の割合は以下のとおりです。

  • 法定相続人が直系尊属のみの場合:法定相続分の1/3
  • それ以外の場合:法定相続分の1/2

 

遺留分の放棄

 
遺留分の放棄は、相続開始の前後を問わず可能です。
相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要ですが、相続開始後の場合は家庭裁判所の許可は不要です。
 

法定相続人の違いによる遺留分

 

 法定相続人

法定相続分

遺留分の割合

遺留分

配偶者のみ

すべて

1/2

1/2

 配偶者と子2人

配偶者

1/2

1/2

1/4

1/4

1/8
1/4 1/8

子2人

1/2

1/2

1/4

1/2

1/4

配偶者と父母 配偶者

2/3

1/2

1/3

1/6 1/12
1/6 1/12
配偶者と兄弟2人 配偶者 3/4 1/2 1/2
1/8 0 0
1/8 0
父母 1/2 1/3 1/6
1/2 1/6
兄弟2人 1/2 0 0
1/2 0

 

遺留分侵害額請求権

 
遺留分侵害額請求権とは、被相続人による生前贈与や遺贈、遺言などの財産処分によって遺留分が侵害された場合、金銭による価額弁償を請求できる権利です。
遺留分を算定する財産の価額は以下の式で算出されます。
 

( 相続開始時の財産価額 + 生前贈与の価額 ) – 債務額

 
遺留分に含める生前贈与は以下のとおりです。

  • 相続人以外への贈与:原則、相続開始前1年以内
  • 相続人への贈与:相続開始前10年間(婚姻・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与)

 
遺留分侵害請求権は、遺留分権利者が相続開始および遺留分の侵害する贈与・遺贈があったことを知った日から1年以内、または相続開始を知らなかった場合は相続開始から10年以内に行使しなければ時効で消滅します。