成年後見制度について
成年後見制度は、知的障害や精神障害、認知症などにより判断能力が不十分で、契約などの法律行為を行うことが困難な人を支援する制度です。
家庭裁判所に申立てを行い、本人の権利を守る援護者(成年後見人)を選任することで、法律面でのサポートを提供します。
この制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があります。
法定後見制度について
法定後見制度には、後見・保佐・補助の3種類があり、対象者の判断能力に応じて、与えられる権限や職務の範囲が異なります。
| 区分 |
後見 |
保佐 |
補助 |
| 意義 |
事理を弁識する能力が欠く常況にある人 |
事理を弁識する能力が著しく不十分な人 |
事理を弁識する能力が不十分な人 |
| 対象者 |
成年被後見人 |
被保佐人 |
被補助人 |
| 保護者(※1) |
成年後見人 |
保佐人 |
補助人 |
| 申立権者 |
本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官、市町村長等 |
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人、検察官、市町村長等 |
本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、検察官、市町村長等 |
| 保護者の権限 |
代理権、追認権、取消権 |
同意権、代理権(※2)、追認権、取消権 |
同意権(※3)、代理権(※3)、追認権、取消権 |
※1:保護者(成年後見人・保佐人・補助人)は複数人でも可、法人も認められます。
※2:保佐人の代理権は当然には付与されず、一定の者の請求により審判で付与されます。請求者が本人以外の場合、本人の同意が必要です。
※3:補助人の同意権・代理権も同様に、請求と審判により付与され、本人の同意が必要です。
法定後見制度において、本人の同意が必要かどうかは以下のとおりです。
| 区分 |
後見 |
保佐 |
補助 |
| 開始手続き |
不要 |
不要 |
必要 |
| 同意権・取消権 |
不要 |
不要 |
必要 |
| 代理権 |
不要 |
必要 |
必要 |
法定後見は、本人の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことで開始します。
申立てができる人は、本人、配偶者、4親等内の親族のほか、身寄りのない人や親族の協力が得られない場合は、福祉の観点から検察官や市町村長も申立て可能です。
申立ての際は、成年後見人の候補者を希望として裁判所に伝えることができます。ただし、本人に法律上または生活面で課題がある場合や、財産管理が複雑な場合には、弁護士や司法書士など専門職が選任されることがあります。また、希望どおり親族が後見人となった場合でも、家庭裁判所の判断で後見監督人が選任されることがあります。
成年被後見人について
成年被後見人とは、精神上の障害により判断能力を欠く常況にある人で、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人を指します。
成年被後見人が単独で行った法律行為は、原則として取り消すことができます。ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は、単独で行うことが認められています。
日常生活に関する行為の例
- 食料品・日用品の購入
- 水道光熱費の支払い
- 家賃・地代の支払い
- 介護サービス利用料金の支払い
- 医療費の支払い
- 電車・バスの乗車
- 嗜好品の購入
- 書籍・趣味への支払い
- 家族(孫など)への小遣い
- 年金の管理・処分
- 上記1〜9に必要な預貯金の払出し
これらは、成年被後見人になる前の本人の生活習慣・生活水準・資産状況を考慮して、日常生活に該当するか判断します。
後見開始の審判後、家庭裁判所は職権で成年後見人を選任します。
成年後見人には、代理権・取消権・追認権が認められます。
被保佐人について
被保佐人とは、精神上の障害により判断能力が著しく不十分な人で、家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人を指します。
原則として、被保佐人は単独で有効な法律行為を行うことができます。ただし、財産上重要な行為を行う場合には、保佐人の同意が必要です。
同意が必要な主な行為
- 元本の領収または利用
- 借財や保証
- 不動産など重要な財産に関する権利の取得・喪失
- 訴訟行為
- 贈与、和解、仲裁合意
- 相続の承認・放棄、遺産分割
- 贈与の申込み拒絶、遺贈放棄、負担付贈与の申込み承諾、負担付贈与の承認
- 新築・改築・増築・大修繕
- 民法602条に定める期間を超える賃貸借
- 上記1〜9の行為を制限行為能力者の法定代理人として行うこと
- 家庭裁判所が特別の審判で同意を要するとした事項
なお、被保佐人が保佐人の同意を得ずに行なった場合、これらの法律行為は取り消すことができます。
保佐開始の審判後、家庭裁判所は職権で保佐人を選任します。
保佐人には、代理権・同意権・取消権・追認権が認められます。
ただし、代理権・同意権は当然には付与されず、一定の者の請求により審判で付与されます。請求者が本人以外の場合、本人の同意が必要です。
被補助人
被補助人とは、精神上の障害により判断能力が不十分な人で、家庭裁判所から補助開始の審判を受けた人を指します。
原則として、被補助人は単独で有効な法律行為を行うことができます。ただし、財産上重要な行為のうち、家庭裁判所が定めた特定の一部の行為については、補助人の同意が必要です。
同意が必要となる可能性がある行為
- 元本の領収または利用
- 借財や保証
- 不動産など重要な財産に関する権利の取得・喪失
- 訴訟行為
- 贈与、和解、仲裁合意
- 相続の承認・放棄、遺産分割
- 贈与の申込み拒絶、遺贈放棄、負担付贈与の申込み承諾、負担付贈与の承認
- 新築・改築・増築・大修繕
- 民法602条に定める期間を超える賃貸借
- 上記1〜9の行為を制限行為能力者の法定代理人として行うこと
- 家庭裁判所が特別の審判で同意を要するとした事項
なお、被補助人が補助人の同意を得ずに行なった場合、家庭裁判所が指定した行為は取り消すことができます。
補助開始の審判後、家庭裁判所は職権で補助人を選任します。
補助人には、代理権・同意権・取消権・追認権が認められます。
ただし、代理権は当然には付与されず、一定の者の請求により審判で付与されます。請求者が本人以外の場合、本人の同意が必要です。
任意後見制度について
任意後見制度は、将来、判断能力が不十分になる場合に備えて、本人が十分な判断能力を有しているうちに、任意後見人を選任し、後見事務を委託する制度です。
任意後見人には、同意権や取消権はありません。契約時に当事者間で合意した特定の法律行為に関する代理権によって、被後見人を支援します。
任意後見契約の手続き
- 委任内容の検討
将来、判断能力が不十分になった場合に備え、「どのような生活を送りたいか」、「誰にどのような支援を受けたいか」を検討し、本人と任意後見受任者が話し合って委任内容を決定します。 - 任意後見契約の締結
本人と任意後見受任者が公証役場で、公正証書による任意後見契約を結びます。契約は公証人の職権で法務局に登記されます。 - 任意後見監督人の申立て
本人の判断能力が低下し、任意後見制度の利用が必要になった場合、本人の住所地の家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。申立権者は、本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者です。 - 任意後見開始
家庭裁判所による調査・審問を経て、任意後見監督人が選任されます。これにより、任意後見受任者が任意後見人となり、任意後見が開始されます。登記事項には、任意後見監督人の住所・氏名等が追記されます。
任意後見監督人
任意後見監督人は、任意後見人が委任された事務を適切に行っているかを監督します。
選任されるのは、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士などの専門職や、法律・福祉に関わる法人など第三者が一般的です。
任意後見受任者本人、配偶者、直系血族、兄弟姉妹は、任意後見監督人になれません。また、未成年者、本人に対して訴訟をした者、破産者で復権していない者も任意後見監督人になることはできません。
任意後見契約の終了
- 任意後見契約の解除
任意後見監督人の選任前は、公証人の認証を受けた書面により、いつでも契約を解除可能です。合意解除の場合、合意解除書に認証を受ければすぐに解除の効力が発生します。当事者の一方からの解除の場合、解除意思表示の書面に認証を受け、相手方に送付して通告します。
任意後見監督人の選任後は、正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、契約を解除可能です。 - 任意後見人の解任
任意後見人に財産の使い込みなど不正行為があり、任務に適さない場合、本人・親族・任意後見監督人の請求により、家庭裁判所が解任可能です。 - 法定後見の開始
任意後見開始後に法定後見(後見・保佐・補助)開始の審判がされた場合、任意後見は終了します。本人の自己決定権を尊重しつつ、本人の利益のために特に必要と認められる場合、家庭裁判所は法定後見開始を決定できます。 - 本人または任意後見人の死亡・破産
本人が死亡した場合、任意後見契約は終了します。また、任意後見人が死亡または破産手続開始決定を受けた場合も任意後見契約は終了します。
なお、任意後見契約終了時は後見終了の登記が必要です。任意後見人の解任の場合は、裁判所が登記を嘱託するため、追加手続きは不要です。
成年後見登記制度について
成年後見登記制度は、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容を、登記官がコンピュータシステムで登記し、登記事項証明書を交付することで情報を開示する制度です。
登記事項証明書の交付請求できる人
- 成年被後見人
- 成年後見人
- 成年後見監督人
- 成年被後見人本人の4親等以内の親族
- 委任を受けた代理人
など一定の範囲に限定