債券のきほん
最終更新日: 2025-10-25

債券とは

 
債券とは、国や企業などが多くの資金を一度に調達するために発行する有価証券です。一般的に、債券には元本の返済日(償還日)や利子の支払い条件などが明確に定められています。
債券は発行主体によって分類され、以下のように呼ばれます。

  • 国債:国が発行する債券
  • 地方債:地方公共団体が発行する債券
  • 社債:企業が発行する債券
  • 金融債:金融機関が発行する債券

なお、日本の債券市場において最も多く発行されているのは、日本政府が発行する国債です。


債券の発行条件

 
債券の主な発行条件には、以下のような項目があります。
 

発行価格

 
発行価格とは、額面金額(通常は100円)で表示される債券を、新規発行時に購入する際の価格のことです。市場の金利動向などにより、額面より高くなることもあれば、低くなることもあります。
 

表面利率(クーポンレート)

 
表面利率とは、債券の額面金額に対して、1年間に支払われる利子の割合を指します。たとえば、額面100円の債券に対して年利2%の表面利率が設定されている場合、年間で2円の利子が支払われます。
 

償還期限

 
償還期限とは、債券の元本が返済される期日のことです。債券はこの期日まで保有することで、額面金額が返済されます。
 
債券の発行価格が額面価格と異なる場合、以下のように分類されます。

  • オーバーパー発行額面価格より高い価格で発行される債券。償還時に額面価格で返済されるため、償還差損が発生します。
  • アンダーパー発行額面価格より低い価格で発行される債券。償還時に額面価格で返済されるため、償還差益が発生します。
  • パー発行額面価格と発行価格が同じ債券。償還差損や償還差益は発生しません

債券市場

 
債券市場は、その機能に応じて大きく2つに分類されます。
 

発行市場(プライマリー・マーケット)

 
発行市場とは、企業や政府などの発行体が新たに債券を発行し、投資家がそれを直接購入する市場です。資金調達のための初回取引が行われる場であり、債券の「誕生の場」ともいえます。
 

流通市場(セカンダリー・マーケット)

流通市場では、すでに発行された債券が投資家間で売買されます。ここでは、以下の2つの取引形態があります。

  • 取引所取引:証券取引所を通じて行われる公開市場での取引
  • 店頭取引(OTC取引):証券会社などの金融機関が投資家の相手方となり、個別に条件を交渉して行う取引

日本の債券市場では、取引の大部分が店頭取引によって行われています。店頭取引は相対取引であるため、同じ銘柄・同じ取引日であっても、証券会社などによって取引価格が異なる場合があります。


債券の種類

 
債券にはさまざまな種類があり、目的や投資対象に応じて選択することができます。主な債券の種類は以下のとおりです。

個人向け国債

 
個人向け国債は、政府が個人投資家向けに発行する国債で、少額から購入できるのが特徴です。3種類があり、いずれも基準となる国債の利回りに連動して金利が決定されますが、最低金利が保証されています。
 

商品名

変動金利型10年満期

固定金利型5年満期 固定金利型3年満期
 満期

10年

5年 3年
金利タイプ

変動金利

固定金利
金利設定方法

基準金利 × 0.66

基準金利 − 0.05% 基準金利 − 0.03%
最低保証金利

年率0.05%

利子の受け取り

半年ごとに年2回

購入単位

1万円から1万円単位

償還金額

額面100円につき100円(中途換金時も同じ)

中途換金

発行後1年経過で可能(ただし、「直前2回分の税引前利子相当額 × 0.79685」が差し引かれる)

発行月

毎月

 
それぞれの基準金利の算定方法は、以下のとおりです。
 

 変更10年型

利子計算期間の開始日の前月までに実施された10年固定利付国債の入札における平均落札価格を基に算出。

固定5年型

募集期間開始日の2営業日前(10年固定利付国債入札日)の市場実勢利回りを基に期間5年の固定利付国債の想定利回りを算出。

固定3年型

募集期間開始日の2営業日前(10年固定利付国債入札日)の市場実勢利回りを基に期間3年の固定利付国債の想定利回りを算出。

新窓販国債

 
新窓販国債は、従来郵便局のみで取り扱っていた委託販売方式を、民間金融機関にも拡大した国債です。毎月発行され、市場実勢に基づいて金利や発行価格が決定されます。
 

商品名

10年固定利付国債

5年固定利付国債 2年固定利付国債
 満期

10年

5年 2年
金利タイプ

固定金利

金利設定方法

財務省が市場実勢に基づき決定

利子の受け取り

半年ごとに年2回

購入単位

5万円から5万円単位

発行価格

財務省が決定

中途換金

市場で随時売却可能

発行月

毎月

転換社債型新株予約権付社債(転換社債)

 
転換社債は、一定の利息を受け取れる社債でありながら、発行時に定められた価格(転換価格)で株式に転換できる特徴を持ちます。株価が上昇した場合、株式に転換して売却することで利益を得ることが可能です。また、株価に連動して転換社債自体の価格も変動するため、債券として売却して利益を得ることもできます。

仕組債

 
仕組債は、債券に株式やデリバティブなどの金融派生商品を組み合わせた複雑な構造を持つ債券です。一般的な債券にはないリスクやリターンの特徴があります。
主な仕組債の種類は、以下のとおりです。

  • リバース・フローター債:市場金利の変動と逆方向に利率が変動する債券。別名「インバースフローター債」「逆変動利付債」。
  • 為替リンク債:為替レートに応じて利率が変動。
  • CMS(コンスタント・マチュリティ・スワップ)フローター債:特定期間のスワップレートに連動して利率が変動。
  • リバース・デュアル・カレンシー債:発行通貨とは異なる通貨で利子が支払われる。
  • デュアル・カレンシー債:償還金が発行通貨とは異なる通貨で支払われる。

外国債券

 
外国債券は、発行体・発行通貨・発行場所のいずれかが外国に属する債券です。
為替リスクの有無によって、以下のように分類されます。

  • 円建外債(サムライ債)海外の発行体日本国内円建てで発行する債券。為替変動リスクがありません
  • 外貨建外債(ショーグン債など)海外の発行体外貨建てで発行する債券。為替変動リスクがあります

債券の利回り

 
債券の利回りとは、債券の保有によって得られる利息収入償還差損益を含めた、年間の収益率を示す指標です。
債券の償還時に受け取る金額(償還金)は、通常、額面金額に基づいて支払われます。購入時の価格と償還金との差額を償還差損益と呼びます。
債券の利回りには、主に以下の4種類があります。

直接利回り

 
直接利回りは、債券の購入価格に対する年間の利息収入の割合を示します。償還差損益は考慮されません
直接利回りは、以下の式で計算されます。
 

直接利回りの計算式

応募者利回り

 
応募者利回りは、債券を発行時に購入し、満期まで保有した場合の利回りを示します。利息収入と償還差損益の両方を考慮します。
応募者利回りは、以下の式で計算されます。
 

応募者利回りの計算式

最終利回り

 
最終利回りは、すでに発行されている債券を市場で購入し、満期まで保有した場合の利回りを示します。こちらも利息収入と償還差損益を含めた実質的な収益率を表します。
最終利回りは、以下の式で計算されます。
 

最終利回りの計算式

所有期間利回り

 
所有期間利回りは、債券を購入してから満期前に売却した場合の利回りを示します。利息収入と売却時の価格による損益を含めて計算されます。
所有期間利回りは、以下の式で計算されます。
 

所有期間利回りの計算式

デュレーション

 
デュレーションとは、債券を保有することで得られる利息と元本の受け取りまでの期間を、キャッシュフローの加重平均によって表したものであり、債券投資における平均的な資金の回収期間を意味します。通常、デュレーションは年単位で表され、債券価格が金利変動に対してどの程度影響を受けるかを測る指標としても用いられます。
一般に、デュレーションが長い債券ほど、金利の変動に対して価格の変動幅が大きくなる傾向があります。つまり、金利が上昇すれば債券価格は下落し、金利が低下すれば価格は上昇しますが、その変動の大きさはデュレーションの長さに比例します。
また、デュレーションの長さにはいくつかの要因が影響します。たとえば、表面利率が同じであれば、残存期間が長い債券の方がデュレーションも長くなる傾向があります。一方で、残存期間が同じであっても、表面利率が低い債券の方がデュレーションは長くなるのが一般的です。
このように、デュレーションは債券の価格変動リスクを評価するうえで重要な指標であり、金利リスクの管理やポートフォリオの構築においても広く活用されています。


現在価値と将来価値

 
現在価値とは、将来得られるキャッシュ・フローを、一定の割引率を用いて現在の価値に換算したものです。将来の金銭的価値を「今の価値」に置き換えることで、投資判断などに活用されます。
一方、将来価値とは、現在の金額が一定の利率で運用された場合、将来どれだけの価値になるかを示すものです。資産の成長を見積もる際に用いられます。
将来価値は、以下の式で計算されます。
 

将来価値の計算式

イールドカーブ(利回り曲線)

 
イールドカーブとは、債券の残存期間を横軸に、利回りを縦軸にとって描かれる曲線のことです。この曲線は、異なる期間の債券がどのような利回りを持つかを視覚的に示します。
一般に、残存期間が同じで信用リスクも同程度の債券であれば、利回りはほぼ同じになります。しかし、残存期間が異なると、利回りにも差が生じます。
 

順イールド(正常な利回り曲線)

 
将来の金利が上昇すると予想される場合、残存期間が長い債券ほど高い利回りを要求されるため、イールドカーブは右上がりの形になります。これを順イールドと呼びます。
通常、短期金利は長期金利よりも低く、また、残存期間が長いほど将来の不確実性が高まるため、利回りも高くなる傾向があります。そのため、順イールドは一般的な形状とされています。
 

逆イールド(異常な利回り曲線)

 
一方、将来の金利が低下すると予想される場合、イールドカーブは右下がりの形になります。これを逆イールドと呼びます。
逆イールドは、短期金利が急上昇するなど、過度な金融引き締めが行われた際に発生することがあります。一般的に、逆イールドの出現は景気後退の兆候とされ、経済の先行きに対する警戒感を示すものです。


債券のリスク

 
債券投資にはさまざまなリスクが伴います。主なリスクは以下のとおりです。

価格変動リスク

 
市場金利の変動により、債券の売却価格が購入価格を下回る可能性があります。
一般的に、市場金利が上昇すると債券価格は下落し、利回りは上昇します。
逆に、市場金利が下落すると債券価格は上昇し、利回りは低下します。

為替変動リスク

 
外国債券の場合、為替レートの変動によって為替差損が生じる可能性があります。
特に、円高が進行すると、外貨建て債券の円換算価値が下がることがあります。

信用リスク

 
債券の発行体の経営や財務状況の悪化、またはそれに関する外部評価の低下などにより、以下のような影響が生じる可能性があります。

  • 債券価格の下落
  • 利払いや償還金の支払い遅延・不履行
  • 債券の価値が失われる可能性

 
信用リスクの判断には、格付け機関(例:Moody's、S&Pなど)による信用格付けが参考になります。
一般的に、

  • 格付けが高い債券:利回りは低く価格は高い
  • 格付けが低い債券:利回りは高く価格は低い

なお、BBB以上の債券は「投資適格債」、BB以下は「投資不適格債(ジャンク債)」と呼ばれます。

流動性リスク

 
市場に十分な需要と供給がない場合や、取引規制などにより自由な売買が困難になると、期待される価格よりも不利な条件での取引を強いられる可能性があります。

カントリーリスク

 
外国債券では、発行体の所在国・地域における以下のような事象によりリスクが高まることがあります。

  • クーデターや政治体制の急変
  • 資産凍結などの重大な規制
  • 政府の債務不履行(デフォルト)

これらの要因は、価格変動・為替変動・信用・流動性など、複数のリスクに影響を及ぼします。


債券に係る税金

 
債券投資によって得られる利益には、利子譲渡益償還差益の3種類があり、それぞれに対して税金が課されます。債券の種類によって課税方法が異なるため、以下に分類して説明します。

特定公社債に係る税金

 
特定公社債とは、国債、地方債、公募公社債、外国国債、外国地方債、公募公社債投資信託などの債券を指します。
 
利子所得は、以下の税率で源泉分離課税の対象となります。
所得税 (15.0%) + 復興特別所得税 (0.315%) + 住民税 (5.0%) = 20.315%
この課税は、申告不要または確定申告による申告分離課税の対象です。 
 
譲渡益や償還差益については、上場株式等の譲渡所得として扱われ、同様に20.315%の申告分離課税が適用されます。
 
また、これらの利益は、上場株式等の配当金や譲渡損失との損益通算が可能です。

一般公社債に係る税金

 
一般公社債とは、特定公社債以外の債券、例えば市場で広く流通していない私募公社債などを指します。
課税方法は、債券の保有者が同族会社の役員かどうかによって異なります。
 
同族会社役員が保有する場合
 
利子所得は、以下の税率で総合課税の対象となります。
所得税 (15.0%) + 復興特別所得税 (0.315%) = 15.315%
 
譲渡益と償還差益は、一般株式等の譲渡所得として課税され、譲渡損失との損益通算が可能です。
 
同族会社役員以外が保有する場合
 
利子所得は、以下の税率で源泉分離課税の対象となります。
所得税 (15.0%) + 復興特別所得税 (0.315%) + 住民税 (5.0%) = 20.315% 
 
譲渡益は、一般株式等の譲渡所得として課税され、譲渡損失との損益通算が可能です。
 
償還差益は、雑所得として扱われ、総合課税の対象となります。